第3回審査委員長総評

審査委員長総評

尾道市立大学経済情報学部 准教授 小川 長

 早いもので、「ええみせじゃん尾道」は、すでに今年で3回目を迎え、今年も36店舗のエントリーの中から、例年通りの審査を経て5店舗の表彰店を選び出した。

 毎年、徐々に「ええみせじゃん尾道」の知名度が高まっている証拠だと思うけど、今年は「おお、ついに登場したか」と思うような伝統ある老舗から、「なるほど、こういう商売もあるのか」と感心するようなユニークなお店まで、幅広い種類の店舗がエントリーされてきた。また、新しく登場したお店に交じって、根強いファンの方からのご推薦で、エントリーの常連とも言えそうなお店の名前も何店舗かあり、「今年も、あの店主さんにお会いできるんだ」と思うと、何だか懐かしい気持ちになった。

 そんなことに思いを馳せていると、お店っていうのは確かに商品やサービスを売ったり、買ったりするところだけど、一方でお客さんの“思い出”を売ってるところじゃないんだろうかって、ボクは考えたりする。きっと、誰にだっていくつか思い出のお店っていうのが、心の中にあるんじゃないかと思う。幼い頃、お母さんに手を引かれて行った店。初めての家族旅行で行った町の、いつもとは雰囲気の違う店。仲の良い友達と、いつも入り浸っていた店。今はもう会うことのない恋人と、初めてのデートで行った店。傷心に押し潰されそうになりながら、片隅で涙をこらえていた店。初めてわが子を、胸に抱いて入った店。孫の喜ぶ顔見たさに、ついつい財布の紐が緩んだ店…。

  ひょっとすると、もう名前や場所さえ、はっきりと思い出せないお店もあるかもしれない。でも、その時のうれしかった気持ちや切なかった想いなど、ささやかだけど、それぞれの人生を彩った感動の断片をボクたちは、その時のお店の様子やお店の人たち、お店の匂いなどとともに懐かしく思い出すことがある。

  尾道という町は、商人の町だとか歴史の町だとよく言われる。ボクは、ある意味で、この町の商人の歴史というのは、これまでずっと尾道で商売をしてきた人たちが、こうした小さな感動の一つ一つを営々と積み重ねてきた結晶だと思っている。つまり、ボクたちが尾道の歴史を誇る時、この町で生まれた小さな感動の結晶を誇っているのだ。だから、これから100年後、200年後にこの町で生きる人、この町を訪れる人たちに誇ってもらえるような歴史を、これからはボクたちが日々丁寧に紡いでいかなければならない。今回選ばれたお店には、是非その先頭に立ってもらって、感動の美しい結晶をもっともっと大きく育んでもらいたいと心から思っている。